――その「ドキドキ」、心臓以外からのサインかもしれません
何もしていないのに、急に胸がドキドキする。
寝る前だったり、仕事中だったり、電車に乗っているときだったり。
特に40代、50代くらいの女性だと、「これって更年期なのかな?」と思う方も多いかもしれません。
でも一方で、「心臓の大変な病気だったらどうしよう……」と心配になる。
循環器内科でも、動悸はとてもよく相談される症状の一つです。
そして最初にお伝えしておきたいのは、
動悸がする=心臓の病気、とは限らない、ということです。
でも同時に、「この年代だから更年期でしょう」と最初から決めてしまうのも、僕はおすすめしません。
実は「動悸」という症状、なかなか奥が深いんです。
そもそも「動悸」って何?

普段、僕たちは自分の心臓が打っていることを、それほど意識していません。
ところが、
「ドキドキする」
「バクバクする」
「脈が飛ぶ感じがする」
「急に脈が速くなる」
「脈がバラバラする」
など、心臓の鼓動をいつも以上に強く感じることがあります。
これをまとめて「動悸」と表現されます。
つまり動悸は、病名ではなく、症状の名前です。
ここでちょっと考えてみてください。
● ホラー映画を見ているとき。
● お化け屋敷に入ったとき。
● ジェットコースターやバンジージャンプに挑戦するとき。
……ドキドキしますよね。
恋愛ドラマだって、いよいよ告白するぞ、というクライマックスになれば、見ているこっちまでドキドキします。
日常生活でも同じです。
● 大勢の前でスピーチをする。
● 大切な面接に臨む。
● スポーツなら、「これを決めれば勝てる」という場面に立つ。
そんなとき、心臓がドキドキするのはむしろ普通です。
では、これらは全部「心臓の病気」でしょうか?
たぶん、そうは思わないですよね。
そう。
緊張や興奮でも、心臓は速くなるんです。
「ドキドキ」を作っているのは、自律神経そこで登場するのが、自律神経です。
自律神経には、交感神経と副交感神経があります。
ものすごくざっくり言えば、
交感神経は身体を、「さあ、いくぞ!」という状態にする神経。
車に例えるならば、「アクセル」の役割を果たします。
副交感神経は、ちょっと落ち着こう」という方向に働く神経です。
車に例えるならば、「ブレーキ」の役割、ですね。
● 怖い。
● 緊張する。
● 興奮する。
● 運動する。
● 「絶対に失敗できない」と身構える。
そんなときには交感神経の働きが強くなって、心拍数は増えます。
これは身体がおかしくなったわけではなく、その状況に対応するための正常な反応です。
つまり、「心臓が速く打っている」ことと、「心臓そのものに病気がある」ことは同じではありません。
心臓は正常。でも身体の事情で速くなることもありますたとえば、貧血。
「え? 貧血で動悸がするの?」と思われるかもしれません。
でも、します。
血液が酸素を運ぶ力が低下すると、身体は必要な酸素を届けようとして、心臓にもっと血液を送り出してもらおうとします。
すると心臓は、「じゃあ、少し頑張って血液たくさん回しますね」と心拍数を上げる。
その結果として、動悸や息切れを感じることがあります。
つまり、心臓はちゃんと働いている。でも、身体の事情で速く打っている。
そんな動悸もあるわけです。
甲状腺の病気でも、心臓は速くなりますもう一つ知っておいていただきたいのが、甲状腺機能の異常です。
甲状腺ホルモンの働きが強くなりすぎると、身体全体にアクセルがかかったような状態になり、動悸、頻脈、発汗、手の震えなどがみられることがあります。
ほかにも、発熱、脱水、睡眠不足、強いストレス、カフェインやアルコール、薬剤などによっても心拍数は変化します。
では、更年期の動悸は?もちろん、更年期に動悸を感じることもあります。
女性ホルモンの変化に伴って、自律神経のバランスも揺らぎやすくなります。
ほてり、発汗、睡眠の変化、不安感などとともに、
「急にドキドキする」
「なんとなく脈が速い」
と感じることもあります。
だからこそ大切なのは、
「40代、50代だから更年期でしょう」と決めつけることでも、
逆に「動悸だから心臓でしょう」と決めつけることでもありません。
● 心臓そのものに原因があるのか。
● 貧血など、血液の問題が隠れていないか。
● 甲状腺機能の変化がないか。
● 更年期を含めたホルモンバランスや自律神経の変化が関係していないか。
● 睡眠やストレス、日々の生活リズムが影響していないか。
● あるいは、いくつかが重なっているのか。

そんなふうに、身体を一つの臓器だけで見るのではなく、今のライフステージも含めて全体を見ていくことが大切です。
更年期は、単に「女性ホルモンが減る時期」というだけではありません。
睡眠、気分、体温調節、疲れやすさ、身体の感じ方など、さまざまな変化が重なりやすい時期でもあります。
だから、循環器内科で心臓を確認することも大切ですし、婦人科や女性外来で相談することにも、もちろん大きな意味があります。
さらに、日々の体調変化や生活習慣を一緒に見ながら、必要に応じて医療につないでくれるフェムケアの専門家に相談するのも、一つの選択肢です。
WHCには、こうした女性特有の身体の変化や更年期、フェムケアについて相談できる専門家もいます。
だからこそ、「心臓か、更年期か」の二択ではなく、
その人の身体に今、何が起きているのかを一緒に整理する。
そんな見方ができるのも、WHCの強みの一つだと思います。
必要に応じて循環器内科、婦人科・女性外来、甲状腺を診る専門医、そしてフェムケアの専門家など、それぞれの得意分野を持つ人へ、無理なくバトンをつないでいけると安心です。
「ドキドキしたら深呼吸」は、実はかなり優秀です

突然ドキドキしてきたとき。
緊張や興奮が原因かな、という状況であれば、まずできることがあります。
ゆっくり深呼吸すること。
ものすごく普通ですよね。でも、これ。かなり理にかなっています。
そもそも僕たちは、誰かを落ち着かせようとすると、「はい、深呼吸して」と言いますよね。
自分自身でも、緊張したときには大きく息を吸って、ゆっくり吐く。
呼吸と心拍は、実はかなり密接につながっています。
息を吸うと心拍数は少し上がり、吐くと少し下がる。
こうした呼吸に伴う心拍の変化は正常な生理現象です。
さらに、ゆっくりした呼吸を行うことで、迷走神経を介した心拍調節など、自律神経の働きにも変化が起こることが知られています。
難しい言い方をやめれば、身体を「興奮モード」から「落ち着く方向」に戻していくために、呼吸を整えることにはちゃんと意味がある、ということです。
もちろん、「深呼吸すれば不整脈がすべて治る」と言いたいわけではありませんので誤解のなきよう。
何度も繰り返す動悸、突然始まってなかなか止まらない動悸、胸痛、強い息苦しさ、失神しそうな感じなどがあれば、きちんと原因を調べる必要があります。
せっかくなら、「呼吸」をちゃんと学んでみる深呼吸なんて誰でもできる。
確かにそうです。
でも、呼吸って、意外とちゃんと習ったことがないんですよね。
そこで、ヨガやピラティスなどを利用してみるのも一つです。
呼吸、姿勢、身体の動きを連動させながら、自分の身体に意識を向けていく。
専門的な知識を持ったトレーナーやインストラクターに教えてもらいながら取り組めば、単に「深呼吸の練習」というだけでなく、運動習慣やリラクゼーション、ストレスとの付き合い方を考えるきっかけにもなります。
「動悸がするからヨガをすれば治る」ということではありません。
でも、呼吸や身体の使い方を知ることを、日頃の健康づくりにつなげる。
これは十分ありだと思います。
そしてWHCには、ヨガやピラティス、トレーニングなどを通して、呼吸や身体の使い方を丁寧に教えてくれる専門家もいます。
「ちゃんと呼吸しているつもりだけど、これでいいのかな?」
そんな素朴な疑問から相談してみるのも、立派な健康づくりの第一歩です。
自分に合った方法を、専門家と一緒に見つけていけることも、WHCならではの良さの一つだと思います。
WHC PICK UP|呼吸は「整える」だけでなく「鍛える」こともできる
呼吸に使っている横隔膜や肋間筋なども、筋肉です。
そのため、吸う息に負荷をかけて呼吸筋をトレーニングする、吸気筋トレーニング(IMT)という方法もあります。
たとえば「POWERbreathe」は、吸う息に負荷をかけて呼吸筋をトレーニングする機器です。スポーツ分野だけでなく、医療・リハビリテーション領域でも呼吸筋トレーニングは利用されています。
実は当院でもこのでも「POWERbreathe」、大変有効に活用させてもらっています!
もちろん、これは突然起きた動悸を止めるための機器ではありません。
「呼吸を整える」ことと「呼吸筋を鍛える」ことは別物です。
でも、日頃から自分の呼吸に関心を持つという意味では、こうしたトレーニング機器も面白い選択肢の一つです。
「不適切洞性頻脈」という状態もあります
少しだけ専門的なお話を。
貧血や甲状腺機能異常など、心拍数が上がる明らかな原因がないのに、安静時やちょっとした動作で必要以上に心拍数が上がり、動悸などを感じることがあります。
それでいて、病名が付くような不整脈でもない・・・
こうした状態の一つに、Inappropriate Sinus Tachycardia(IST:不適切洞性頻脈)があります。
大切なのは病名を覚えることではありません。
心臓が正常なリズムで打っていても、「速さ」そのものがつらさにつながることもある。
これくらい知っておいていただければ十分です。
診断には、貧血、甲状腺機能異常、脱水、薬剤など、ほかの原因を確認することが必要です。
病院に行ったときに限って、動悸が出ない問題
これは本当によくあります。
「昨日の夜はあんなにドキドキしたのに、病院に来たら何ともありません」
というやつです。
不整脈を調べるとき、とても大切なのが、
症状が起きている瞬間の心電図を捕まえること。
通常の心電図は、その場の短い時間しか記録していません。
だから、「たまにしか起こらない動悸」は、診察室では捕まらないことがあります。
でも今は、自宅でも「その瞬間」を記録できる時代になってきました。
自宅で「そのときの心電図」を残す
たとえば、一部のウェアラブルデバイスなどには自分で心電図を記録できる機能があります。
さらに、家庭で使用できる携帯型心電計もあります。
オムロン ヘルスケアでは、動悸などを感じたときに胸に当てて心電図を記録できる携帯型心電計や、血圧測定と心電図記録を一台で行える家庭用機器も展開しています。記録した心電図をスマートフォンで確認したり、診察時に医師と共有したりすることもできます。
「その瞬間を押さえる」から、「何日間か見張る」へ
もう一つ、最近かなり進歩しているのが、長時間の心電図検査です。
従来のホルター心電図は24時間程度の記録が一般的でしたが、現在では身体に小さな機器を貼り、数日間から最大2週間程度記録できる機器も登場しています。
日本循環器学会・日本不整脈心電学会も、こうした携帯型・装着型心電計についてコンセンサスステートメントを公表しています。
たとえばオムロンのHeartnoteは、薄く軽いパッチ型の心電記録器で、最大7日間連続して心電図を記録できます。
これは家庭用の商品ではなく、医療機関を通じて行う検査です。
ほかにも、フィリップスのePatch、フクダ電子のWR-50/WR-100など、長時間記録できるパッチ型心電計が登場しています。
「1日病院で調べたけれど、何も起きなかった」
それで終わりではなく、症状の頻度に合わせて、どうやってその瞬間を捕まえるか。
検査の選択肢もずいぶん広がっています。
では、どんな動悸なら病院へ?
動悸に加えて、胸の痛みや圧迫感がある、強い息苦しさがある、意識が遠のく・失神する、強いめまいがある、運動中に強い動悸が起こる、突然激しく始まってなかなか治まらない――こうした場合には、早めに医療機関へ相談してください。
症状が強ければ、救急受診が必要になる場合もあります。
そこまで強い症状ではなくても、「最近よく繰り返す」「以前より増えた」「仕事や睡眠に影響している」「安静時でも脈が速い」「原因が思い当たらない」といった場合には、一度相談してみてください。
「更年期? 心臓?」を、自分で決めなくていい
動悸がすると、
「心臓なのかな」
「更年期かな」
「ストレスかな」
と、つい自分であれこれ考えてしまいます。
でも、一人で悩み続けて、その症状をいつまでも抱えて苦しまれるよりも、
● 心臓を調べてみる。
● 貧血や甲状腺について調べてみる。
● 更年期の症状が背景にありそうなら、婦人科や女性外来に相談する。
● 必要なら、その「ドキドキ」が起きている瞬間の心電図を記録してみる。
そうやって、一つずつ整理していく方がいいと僕は思います。
そして、そのために相談できるさまざまな分野の専門家がWHCにはいます。
「どこに相談したらいいのかわからない」
そんなところからでも大丈夫です。
今起きていることを一緒に整理して、必要であれば適切な専門家へつないでいく。
それもWHCが担える役割の一つです。
そして、病気を探すことだけが健康管理でもありません。
● 呼吸の仕方を知る。
● 身体を動かす。
● 睡眠を整える。
● 自分のストレスや身体の反応を知る。
● 必要なら、医師だけではなく、トレーナーやインストラクターなど、さまざまな専門家の力も借りる。
そんなところから始めてもいいと思います。
病気の有無を調べるだけではなく、今より少し心地よく、健康に暮らすために何ができるかを一緒に考える。
そんな相談ができる専門家と出会えることも、WHCの大切な役割だと思っています。
動悸は、ときに心臓そのものの問題を知らせてくれるサインです。
一方で、
「最近ちょっと頑張りすぎていませんか?」
「身体のどこかに、いつもと違う変化が起きていませんか?」
と、心臓が教えてくれていることもあります。
だから、
● 怖がりすぎず。
● でも、決めつけすぎず。
● まずは、深呼吸。
そして、それでも気になる「ドキドキ」があれば、一度、その理由をWHCと一緒に探してみてください。






